なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注35

公開: 2021年4月29日

更新: 2021年5月25日

注35. ルース・ベネディクトの「菊と刀」

米国の文化人類学者、ルース・ベネディクトは、第2次世界大戦中に米国政府からの依頼で、日本人の行動様式の特徴に関する調査研究を行った。この調査研究では、日本の文献に書かれていた日本人の行動様式に関する記述を調べ、米国在住の日系人からの聞き取り調査を行い、日本人の行動パターンを、米国人の行動パターンとの比較で説明しようとした。この調査研究の成果を、戦後(1946年)、まとめて出版したのが、書物「菊と刀」である。

ベネディクトは、日本人の行動を決定づける要因に、「恥」(shame)を嫌い、それを避ける傾向が強いことを見出した。米国社会では、人々は、自分が「誇りに思えること」を選んで実行する傾向が強いのに対して、日本人は、人格や血統、出身地などへの評価に悪影響を与える可能性のある行動を避けようとする傾向が、特に強いことにベネディクトは気づいた。第2次世界大戦中の日本軍兵士によく見られた「降伏したことで、捕虜になることを嫌って、敢えて無謀な戦闘を仕掛けて、全滅を選ぶ」行動も、兵士たちの目から見れば、「日本の兵士が捕虜になることは、恥である」と認識していると考えれば、理解できる行動である。

一人の兵士が、戦いで敵に降伏し、捕虜として捕らえられることは、日本軍の兵士は「簡単に負けを認め、すぐ降伏する」と敵に認識されてしまい、日本軍全体の士気が低い証拠ととられかねない。その原因を自分が作れば、それは部隊の一員として「恥」になる。さらに、日本軍全体に対しても迷惑をかけることになり、「恥」を晒すことになると考えるのである。このような、自分や自分の一族などに対する周囲からの評価を下げかねない行為を嫌うのが日本人であるとした。

このようなベネディクトの報告に基づき、米国陸軍では、戦場における日本軍の行動を観察し、日本軍部隊が全滅を覚悟して、突撃を決行することを決めると、前日の夜に、部隊では酒盛りが行われ、大騒ぎになることを見出した。このような前兆は、次の日の突撃を示唆しているので、米軍の部隊は、日本軍との正面に機関銃を据え、突撃に備えたようである。日本軍部隊の兵士は、銃を持ってはいるが、走って米国軍に向かって進んでくるので、機関銃で皆殺しになるのである。米軍の兵士にはほとんど犠牲が出なかったようである。このような無謀な戦いが、ガダルカナル島の戦いでは、繰り返され、日本軍の打撃は大きかった。

参考になる読み物

菊と刀、ルース・ベネディクト、光文社古典新訳文庫、2008